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 ここは世界中の冒険者達が集まり出会うギルド




 それは遠い国の話。

 発展を重ねた大きな国。
 大国にはたくさんの人々が住まい、行き交う。多くの問題に陥りました。国の安寧を脅かす暗躍者。王妃の首飾りを巡った事件。
 そんな国の危機を救った三人の英雄たちがいました。どこからともなく剣を手に持ち颯爽と現れ、時には銃を使って戦い、とても戦いに長けていました。彼らは国と人々の平和を守っていきました。守護者であった、それは素晴らしいガーディアンたちでした。
 そして彼らは剣を天高く掲げてこう言ったのです。


「One for all,all for one」

「一人はみんなのために、みんなは一人のために」


 自らの力で助けて、助けられて。そうやって人は支えあって生きていこう。
 いつからか三人の英雄たちのことをこう呼ぶようになりました。

「ありがとう、三銃士様」

 この国には三銃士のガーディアンたちがいた。















…… ……小生の声が聞こえますね…。

小生は全てを司る者…ではないです。あなたはやがて、真の仲間として小生たちの前に現れることでしょう。
しかし、その前に、この小生に教えて欲しいのです。あなたがどういう人なのかを……





「っていう歴史がこの国にはあったんです」
「……私は…」
「実はあれには続きがあって、かなりのプロしか知らないんですけどね」
「じゅうし……」
「あのー、大丈夫ですか…?」
「あっ…はい!私は銃士に憧れた冒険者です!」
「俺の話……、聞いてました?」
「…えっと…王妃の首飾りが綺麗なんですよね?」
「冒険者さん、もう一度説明した方がいいです?」
「こ…、ここまでで大丈夫です!後は自分で歩いて行きます。ご案内ありがとうございました!」


 男性ウェディは良い旅を、と言う。
 町の案内所で出会ったがとても人当たりの良い案内人だった。熱くこの国について語ってくれたのでたくさんのことを学べたが、やや最後上の空となってしまったのを少し申し訳なく感じる。
 先ほど冒険者と言った者は中央広場へと向かった。
 天気がとても良い日である。暑すぎずに寒すぎずに。たったそれだけで人の行き交いは増えて、出店の商店街は活気づいている。
 ここはとても大きな国の城下町。その中央広場には三銃士を称えた銅像があった。

 この国には三人の英雄、三銃士がいたらしい。
 その英雄たちの中心とした、おとぎ話のような歴史が有名な国だ。
 三銃士たちは職業的には守護するもの、ガーディアンだったらしい。この国を故郷とする者たちは彼らに憧れてガーディアンを目指す者が多い。
 更にそれが三銃士たちの歴史より前なのか後なのかはやや不明だが、この国にはガーディアン本部がある。つまり、ガーディアンに転職したければこの国を訪れる他ないのだ。

 この国には他の土地よりもガーディアンが多い。

 しかしガーディアンとはマスタークラスと呼ばれる従来より上位の職業である。戦士とパラディンを極めた者のみがなれるのだ。積み重ねられた努力と実績、そして持って生まれた才能がなければガーディアンへの転職は難しいと言われている。先ほど別れた案内人も、自分も昔はガーディアン目指してたんですよ、でもパラディンが向いていなくてと苦く笑っていた。
 つまり、この国ではガーディアンはみんなの憧れである。





──One for all,all for one

 冒険者は町をぼんやりと眺めながら歩いていると、気づけば広場へ着いていた。そのまま三銃士の銅像まで歩みを進めていくと、銅像前の石碑には彼らの有名な言葉が刻まれていた。

 広場は平日ということもあって、程々な人通りである。銅像を真ん中に小さく咲いた花々が生い茂っている。健やかな風が白色の花びらを撫でて、彼らの横を通り過ぎていく。
 風は空へ舞い踊り、人々の笑い声や足音、そして軽快な音楽を届けてくれた。

──みんなはヘイ、ひとりのために

 軽やかな音の方へ目を向けると、賑やかな髪と派手な格好をした男性ウェディを中心に広場の片隅には人だかりが出来ていた。目立つ彼はアコーディオンを両手に持ち、楽しげに歌っている。



 ひとりはみんなのために
 それが俺たちのモットー
 我ら銃士

 ひとりはみんなのために
 正義を守る
 俺たち鍛え抜かれた
 つわものばかりさ
 腕に覚えがあるなら
 君もなかまにならないか




 愉快に歌う彼は、陽の光を浴びるように手を広げた。
 その直後、周囲は喝采を送った。いいぞ、ジャスパー。ジャスくん素敵。ジャス、今日の晩御飯に使ってよ。アレもやってよお兄ちゃん。彼の名前はジャスパーというらしい。
 ジャスパーの前には可愛らしい箱が置いてあり、観衆はそこに投げ銭を入れていた。その様子を見るに、どうやら彼は旅芸人のようだ。

「アレね!いいよいいよーっ☆プクちゃんのお願いなら聞いちゃう♪あ、可愛い子のお願いも聞いちゃうよ!」

 俺のリクエストも聞いてくれよ、私はいいの、早く早くと広場の片隅はどんどん賑やかになっていく。


──いくよーっ☆

 ジャスパーは何かのスキルを発動させる。小さく手が光った。これから何が起こるのか。周囲は見守る。
 すると、派手な頭の上にはタライが降ってきた。タライは重力に従って、そのまま痛そうな音を彼の頭で鳴らしていく。
 そしてレトロな決めポーズと顔。


「そっちじゃなーい」
「えーっ!?プクちゃん!僕の秘伝のボケが見たかったんじゃなかったの!?」
「ボケまた失敗してたよ。ジャス、宝珠見直したら?」
「お兄ちゃんハッスルダンスのほうだよー」
「そっちのことね!OK任せてーっ☆プクリポ無料だよ!あとはチップ入れてってね♪」

 集団の前まで来ると旅芸人の横に紙が貼ってある。



 雇用契約書は婚約届
 旅芸人ジャスパー

 世界各地を巡業中
 冒険者ギルドでの雇用はプクリポ無料



 派手に彩られた張り紙にはふざけたことが他にもたくさん書いてあったが、どうやら世界各地を巡っているとても愉快な旅芸人であることがわかる。
 この国を訪れて旅芸人の職業なんて珍しいなと思ったが、巡業で偶然来たならよくあることかと冒険者は心の中で腑に落ちた。
 それにしても先程の歌は懐かしいなと思う。
 銃士隊のテーマ。子供向けの絵本の歌にあったと記憶している。幼少期に銃士に助けられた三人の子供たちが大人になって銃士を目指すストーリーだ。三銃士を元にして、子供向けに作られた有名なお話である。
 冒険者は久しぶりにその歌を聴いて、なんだか晴れやかな気分になった。お礼にチップを置いていこうと片手をカバンに入れながら一歩前へ出る。


──そーれっ!ほら♪


 ジャスパーはいつの間にかジャグリングを始めていたようで、観衆の方へカラフルなボールを投げた。それは偶然に冒険者の前へと飛んできた。

「え…!?」

 戸惑いながらも受け取ると、ハイハイこっちこっちと自分の方へ投げるようにジェスチャーをしてくるので、冒険者は急いで旅芸人の方へ投げ返す。
 急に振られてもそんなにすぐには対応出来ない。
 ボールを返すことに意識を持っていかれていたのですぐに気づかなかった。彼は投げ返されるボールではなく、賑やかな周囲ではなく、冒険者の瞳を見ていたことを。
 薄い青色の世界が写る。しかし、目が合ったと気づいた瞬間にカラフルなボールが彼の顔を遮った。ボールが通り過ぎた後にはもう、彼は両目を少し弓なりに反らせて主にプクちゃんたちに笑顔を見せていた。


──ひとりはみんなのために

 昔から聞き慣れているはずなのに、やけに耳に残る言葉だった。











「オニオーン畑で捕まえて……?」

 この国は発展に発展を重ねて、それはそれは大きい国である。
 それの発展は生活水準にも大きな進化を与え、世界的に見ればまだ技術としては珍しくもある映像技術もとても発達していた。
 映像技術は情報の伝達や教育といった社会的影響に大いに貢献をし、更には娯楽といった生活をより充実したものへと刺激を与えてくれる。


 冒険者は先ほどの旅芸人が女の子を口説き始めた辺りでその場から離れた。
 常連の客たちはああいつもの始まった、これで何敗?とりあえず0勝なことしか覚えてないなどと会話をしていた。まだ女の子の返事はおろか、口説き文句の途中であったのに負け戦カウントを始められてしまうのは余りに可哀想。ただ、なんとなくフラれそうな雰囲気は感じた。なんかごめん。

 広場を出て、まず教会へ向かうことにした。冒険者は、そもそも教会へ向かう途中に広場を通過しようとしていたのである。



 冒険者。辞書的には、なにかの目的で、それが名誉、利益のために、あるいはなんらそれがもたらすものがなくても冒険それ自体のために危険な企て、冒険、試みに敢えて挑戦を試みる人たちのこと。 あるいはかかる事件、事態に目撃者として遭遇した人たちも含めて言うことがある。と、書かれているらしい。
 この現代においては冒険者ギルドに登録している者のことを指す。冒険者ギルドでは主に魔物討伐や護衛、お使いのようなクエストを受けることが出来る。仲間を集めて冒険に出る。

──君に出会って、僕らは旅立つ

 今年の冒険者募集の貼り紙に書かれている言葉だ。映画フライヤーの前にボーッと立つこの冒険者も、仲間を見つけて冒険に出てみたいと夢を描いた人である。
 だが、その冒険者には別の夢もあった。憧れを形にするためにこの国を訪れたのである。
 仲間を守れるような、おとぎ話の三銃士たちのような。

「ガーディアンになりたい」

 ガーディアンになるにはこの国のガーディアン本部で転職の試練を受けなければならない。その本部は教会にあるので、冒険者は教会へと足を進めた。




 あの感動を再び。劇場で観よう。再演。
 確か先ほどの映画フライヤーにそんな事が書かれていた気がする。
 前に友人に勧められてその映画は観たことがあった。オニオーン畑で捕まえて。それは学校を辞めてしまった青年が大都市で社会の偽りと葛藤する物語だった気がする。最後のシーンはそれはそれはもう、勧めてくれた友人に感謝をしたものだった。
 世界的大ヒットとなったその作品は多くのメディアの注目を集めた。主演俳優はデビュー作だったらしい。青年の思春期の揺れと、兄弟愛を演じた繊細さが素晴らしいと評価を得ていた。その俳優は大ヒットを皮切りに様々な活躍をしていき、今では世界に股をかけるスーパースターである。
 しかし、最近は冒険者も戦士やパラディンの特訓に勤しんでいたためこういった娯楽を観ていなかったので少し懐かしく思う。最後に彼を観たのは、トルコ人に扮して塩を振っているCMだった。繊細な青年から逞しいトルコ人まで同一人物?ま??と、ビックリしたことのを覚えている。


(確か名前は………)

 冒険者は俳優の名前を思い出そうとぼんやりしながら歩いていた。そういえばこの国には大きな劇場があったなとか、機会があれば行ってみたいなとか。
 すると横の細い路地から何者かが走って出てくる。
 向こうは気づいて直ぐにスピードを緩めたようだったが、当然避けられる訳もなく気づいたらぶつかっていた。

「ッ!?…あ、えっとすみません!」
「…こちらこその方こそ、急に出てしまって……大丈夫でしたか?」
「……あれ…?」
「あー、さっきの冒険者さん」
「えっと、案内人さん……?」

 パッと見、先ほどとは身なりが変わっていたので気づかなかったが、ぶつかってきたのはどうやら別れたはずの案内人だった。
 まだ別れてから30分も経っていないのに反対方向から着替えた状態で会うとは、なんとも不思議な感覚。そんな状況に少し落ち着きのなさを感じていたが、よくあることのように彼は落ち着いた様子でこちらを伺っている。

「まだここにいたんですね。教会への道は…ここで間違ってはないですけど、迷ったりしちゃいました?」
「あっ……そのー、広場に立ち寄ったりしてしまいまして…」
「なるほど、広場ね…面白い旅芸人でも出会えました?」
「あ、はい…!盛り上がっていてついつい見ていってしまいました!ボケは…滑ってましたけど、ジャグリングとか凄い器用に上手くて!」

 旅芸人さん面白かったなぁと感想を話すといいね、彼面白いよね。と、案内人は笑って話している。

「あ、わ、すみません!何か急いでましたよね?引き止めちゃって!」
「いや、急いでた訳では無いから大丈夫ですよ。俺の方こそぶつかってしまって…」
「い、いえいえ全然…!鍛えてますので!」
「あははっ、それは頼もしい未来の銃士さん」
「は……はい!」
「何かお詫びに……うーんでも、ここから教会への道はわかりますよね?」

 冒険者は気にしなくて大丈夫ですよ、と言ったが不注意でぶつかってしまったお詫び何かしたいらしい。まぁ、不注意であったのは両方なのだが。

「あー!そうだ。これ受け取ってくださいよ」

 何かを思い出したらしい案内人はカバンを漁り始めた。
 カバンの中を除くのもマナー違反な気はしたが、目の前でカバンの口を大きく広げ始めたのでプライベートが丸見えである。
 しかしカバンは整頓されており、丁寧に必要なものを小分けしてしまっていたので意外と個人情報ダダ漏れではなかった。
 あったあったと小さい独り言に続いて、案内人は手のひらサイズの小箱を取り出す。

「箱……?」

 うん、箱です。答えながら案内人は説明をしてくれた。

「この箱は御籤なんですよ」
「オミクジ……?」
「聞き慣れませんか?エルトナ大陸の遠い国にある運勢を占う物らしいです。ほら、似たような名前だとおみくじボックスとかあるじゃないですか。アレに近いようなものです」
「ああ〜、そういえばそんなもの…ありましたね」
「これは知り合いの占い師から押し付けられた物なんですけどね」
「へぇ…占い師……」
「いつもは色んな国を回ってるみたいですよ。つい先日この国に来たみたいで「このどんな運でもよくなーるクンをあげよう、その代わりに小生にお酒奢って♡」って無銭飲食して置いていきました」
「え、怪しすぎるでしょ」
「ははっ、でしょ。でも意外と彼の占い当たるんですよ。まだこの国に滞在してるから会えたらいいですね。まぁ、彼の事は良いとしてこの御籤です!」
「あ!は、はい!」


 案内人は小箱の蓋を開けて合言葉を唱える。

──丸見えホイホイ♡

 随分と馬鹿げた合言葉を作ったものだ。
 合言葉、つまり魔法を唱えると小箱は薄くピンク色に光り、折り畳まれた紙が飛び出してくる。それをキャッチして御籤を読んだ。

「なになにー、ジジは17時木箱に小指をぶつける。痛さに悶絶してしまう。ラッキーアイテム、セミのぬけがら。持っていれば今日一番の困った時に使えるので入手しておこう」
「………」
「クソワロタ、顔が良くても許さん。エセ占い師」

 案内人は紙を握り潰して地面へと叩きつける。意外と感情的な性格だったようでそのまま感情のままに踏みつけた。いや、踏みつけようとしたのだ。

「痛っってぇー!!!!!」

──ゴーン

 時計の針が17時になった。










「あとは…あげます……」
「え、箱ごと…!?」
「呪わr、こんなに当たるの凄いでしょ!きっと冒険者さんの旅に役立ちますよ」
「いやいや、いいい!!間に合ってますって!!」
「はいはいどうぞー、ご返品は占い師本人に渡してくださいねー」
「名前も顔も知らないし!!」

 案内人は冒険者のポケットに小箱を押し付けていた。
 冒険者もその場でクーリングオフしようとしたが、中々に案内人の力が強い。普通に押し負けた。絶対おもさ積んでるだろ、なんでパラディン諦めたんだよコイツ。

「ハァハァ……、受け取り…ますから…」
「素晴らしい旅をお祈りしますよ…」
「…1回……、使い方の確認で…ここで占ってみていいですか?」
「もちろんどうぞ!あ、合言葉はハートを語尾に付けるのがポイントですよ」

 おのれ、案内人ジジ。スッキリした顔をしおって。

──丸見えホイホイ♡

 顔も知らない占い師アンチになりそうだ。



「おっとっと、えっと……この紙を読むと…」


 22時、君の剣は折れる
 だがその崇高な心を持っていれば大丈夫だろう
 ラッキーアイテム、ふうせん
 今日は絶対に晴れる、絶対に
 晴れの日に見るふうせんって可愛いよね



 きっとまた、くだらないような事が書かれているのだと予想していた。いや、後半はくだらない内容だな。
 剣が折れる…?この剣が?冒険者は横に携えている片手剣にそっと指が触れた。

「…ふむ……。冒険者さんって、歴史の銃士たちに憧れてこの国を訪れたんでしたよね?」
「…え!? あ、まぁそうですけど、御籤の内容には触れてくれないの!?」
「旅を見送る前に、三つ良いことを教えてあげるよ」
「は、はい……」

「一つ、全てを信じるな。二つ、正義を守れ」


──三つ、三銃士を信じろ













「こんにちは、ガーディアン本部へようこそ。いかがされましたか?」

 憧れの地へ来たのだ。あちらこちらとついついよそ見して歩いてきたら時間がかかってしまったが、無事教会へたどり着くことができた。

「あ、あの…ガーディアンへの転職をしたくて」
「転職の試練ですね。かしこまりました」

 事前に用意してきた書類と冒険者カードを受付に提出する。

「ご提出ありがとうございます。では手続きにお時間をいただきます。本日は申請に混みあっておりますので、しばらくお待ちください」

 受付のエテーネ女性とはありきたりのやりとりだったが、言葉ひとつひとつに対して緊張しつつ対応した。
 受付を離れて辺りを見渡す。ここは何度も写真で見た教会だ。
 そもそも転職とはダーマ神殿が執り行うものである。ダーマで修練を積んだ神官が派遣されているらしい。ガーディアン本部にも当然たくさんの神官が歩いている。

 あの重たそうな鎧を着て歩いている人はガーディアンなんだろうか。そもそもこの国はガーディアンが多いのだから何人かのガーディアンはすれ違っていたのだろうか。
 しばらくかかると言っていたがどれくらいだろう。冒険者は教会の隅にある椅子に腰をかける。まだ5分と経っていないのにまだかまだかと、落ち着かずに待ってしまう。
 ガーディアン本部の関係者はみんな慌ただしく動いていることからも、冒険者はまだまだかかりそうだなぁと欠伸をしてしまう。


(今日隣の国から出てくるのに朝早かったしなぁ、ふわぁ…。仲間。…自分はどういう人……。ガーディアンに……三銃士たちみたいに………)





「………ぼうけ………ま…」
「……はぁい、銃士に…」
「あのー…冒険者様……?」

 トントン。肩を軽く揺すられて、心地よくて。冒険者は自分は何してるんだっけと頭をフル回転させる。やっば。

「…冒険者様、お待たせ致しました」
「は!わ、はい!」
「ふふっ、おはようございます」

 暑い、きっと顔が赤くなっている。受付の女性は上品にこちらを微笑んでいる。

「ご提出いただいた書類と冒険者カードを確認しました。戦士、パラディンのレベル達成。クエスト実績達成。ガーディアンへの転職試練、条件達成です」
「は、はい…!」

 夢のガーディアンへ。ここまで来るのにとても頑張った。努力したんだ。憧れへの道を歩むために。

 三銃士たちのような、仲間を守れるような。

「マスタークラス転職クエストを発行します。未来の守護者様、頑張ってくださいね」







 転職クエストの紙には、試験官に会いにいって試練の説明を受ける。試験を達成したら帰還して守護神の加護を貰う、と書いてある。それでクエスト達成だ。晴れてガーディアンへと転職出来るようになる。

 試練場は教会敷地内、本堂隣に建つ施設。移動しようと外へ出ると突然の豪雨となっていた。
 そういえば晴れの日にがどうとか、絶対にとか御籤に書いてあったような。やっぱり占いって当てにならないなと思う。



「ここが試練場…か、ハァ……」

 豪雨の中急いで移動したが、階段の多いこと多いこと。こんなに階段作る意味あった?これも試練?苛立ちをぶつけながら進むしかなかった。

 試練場には先に2人ほど転職試練を受けに来ていた。
 1人は冒険者のような風貌をした女性エルフ、もう1人はどう見ても一般階級ではないような豪華な装いの男性ウェディだった。

「よし、最後に魔封石を探してきて遺跡の文字を読み解け」
「は、はい!あ、あの…」
「何か?」
「いっ、いえ大丈夫です!」

 どうやらエルフは試練に時間が手こずっているのか疲れているようだ。きっと何かに困っているのだろう。
 試練場の隅に移動してマップとルーラストーンをチェックしている。もう今日は時間も遅くなってしまったし、数日はかかりそうだなと冒険者は思った。

「待たせるな、これだろう」
「あー、そのですね。買ったものではなくてご自分で採ってきて」
「同じものだろ?俺を誰だと思ってる。俺の時間をこれ以上使わせるな」

 お貴族のような傲慢な男は不機嫌を全面に押し出している。試験を圧力で簡略化したいらしい。

「…いや、それでは意味が」
「何度も言わせるな。俺を誰だと思っている?貴様ヒース家如きが煩わせるな」
「……」
「試練の流れならわかっている。要は貴様が試験の終了を認めて、教会に魔封石をくべればいいのだろう」

 そのような階級で物言わせて通そうとしている者にガーディアンの名前は相応しくないだろう。なぜこの傲慢な男は気づかないのか。きっとここまでも家の力で生きてきたのか。

「ですから、試験を」
「試験など無駄だ。俺の実力は満たしている。貴様…ヒース家の者が誰のおかげで仕事を行っている?」
「……私は認めません」

 さすがガーディアン本部の試験官に選ばれる男だ。圧力にも屈さずに傲慢な男を認めない。冒険者は呆れながらそのやり取りを後ろから見ていた。

「ふん、ならいい他のガーディアン本部の者に認めさせるだけだ。貴様のことも潰してやるからな。それに天然の魔封石が必要だと言うのならあの冒険者のを使わせてやろう」
「はぁ!?ちょっと待ってください、彼女は関係な」

 その瞬間、傲慢な男は目の前からいなくなっていた。
 彼はまだガーディアンではないはず。それにしては早すぎる。黒い閃光は戦士やパラディンのようには見えない。
 試験官と傲慢な男が大きな声で揉めているのをきっと先ほどの女性も聞いていたのだろう。振り返って目を見開いて驚いた顔をしながら急ぎルーラで離れようとするが、傲慢な男の方が早そうだ。
 ダメだ。急げ。冒険者では距離が遠い、間に合わない。間に合え!誰か!





──エンゼルは微笑まない、不屈の鼓動


 黒い光を白い閃光が打ち消した。
 誰だ、試験官は急ぎ走ったが間に合わずに立ち尽くしている。この試練場には冒険者を含めて4人しかいなかったはず。
 白い羽根と共に降りてきたのは、誰だ…?


「ダメだよ、君ガーディアンになりたいのなら絵本から読み見直してきたらぁ?」

 頭巾を被っていて顔が見えないが、男性ウェディのようだった。
 女性の前に立ちはだかり、傲慢な男の剣を軽く受け止めている。


「誰だ!貴様…!!この俺の前に立つとは死にたいらしいな!」
「それは難しいと思うよ。だって君に小生は殺せない、小生は君を殺せる。それくらいの実力差わかりなよ、おバカさん♡」
「…ああ、アッハッハ!!いいだろう、この国を歩けないようにしてやる!俺1人が相手だと思ってたのか?のうのうと出てきたゴミめ!」

 傲慢な男は空へドルモーアを打ち上げる。何かその瞬間、空気が変わったのは冒険者にもわかった。
 これから何かが起こると感じた試験官は急ぎ、謎の男の後ろにいる女性を請け負っている。謎の男と試験官はすれ違う瞬間に何か耳打ちをしていたように見えた。
 謎の男は冒険者の方へ一瞥をくれた。何か知っているかのような顔をして。

「ヤッホー。あ、風船ちゃんと持ってます?」
「えっ、え………??」

 そういえばなんかラッキーアイテムに風船とかなんとか書いてあったような。

「意識低いの良くないねぇ。いい……?ラッキーアイテムっていうのは持ってるだけで運勢が良くなっちゃうんですよ?そんな便利なアイテム持つべきだと思わない?マヌケさん♡」

 なぜそんなこと知ってるんだろう、と冒険者は独り言を呟いてしまった。




「主様、今……参りました」

 数人の影が試練場へと降り立った。
 影たちは仮面をつけている。彼らを見ると足の底からすくんでしまうような気分になる。震えているのか自分は。

「大丈夫さ、小生の占いは外れない。天気は晴れだって言ったじゃないか。太陽は上からやってくるよ」

 影たちは一斉に謎の男へと向かう。


「イイなぁ☆みんな楽しそう!僕は久しぶりに仲間たちに会えてとってもハッピー♪」

──ん〜マッ♡天光の護り

 白い光は集結し形を成す。羽根となって空へと舞い踊る。まるでダンスでもするように重たい空気を書き換えていく。
 頭巾の男のガードに合わせて連携し、被ダメージを消し去ってしまったようだ。

「ちょっと〜遅いよ…」
「えーっ!これでも急いだんだよー!?」
「プクちゃんと遊んでたんじゃないの?」
「プクちゃん!!もっと遊びたかったよーっ」

 まぁでもアレくらいなら君1人でなんとかなってたでしょ、ともう1人現れた謎の男は言っている。
 一応隠してはいるが…派手なオレンジが隠しきれていない。というか、この話し方は昼間に女の子を口説いてた。

「アー♪キミ、広場の時の!!」

 隠す気はもはや無いらしい。冒険者の方に楽しそうに手を振っている。
 疑問は残る。彼は旅芸人だったはずだ。ガーディアンにもなれたのか…?しかしなぜここに来たのだろう。

「しー」
「シーー?」
「しーっ、だよ♡」
「あ、ゴメン今の忘れて☆」

 やっぱり正体は内緒だった。

「貴様ら!!ふざけおって、許さん……許さんぞ!おのれ!!」
「隣とは言えここ、教会なんです。神の御前で随分派手にやってくれるじゃん?」
「そんなもの俺の知ることじゃない!…ハハッ、ハッハハハ……いいだろう、この機会に見せしめにしてやる!」


 傲慢な男は赤い魔法石を手に持つ。そのまま腕をゆっくりと前に伸ばすとくるりと掌を上向きに。
 影たちは3人囲うように集まり、聞いた事のない言語の詠唱を始めた。指先をナイフで切り、血を糧に何かが集結していく。
 そのおぞましさにどこか現実味の無さを感じてしまっていた。

「アッハッハッ!!下等如き、俺の歩く道となればいいのさ」

 残った影たちは謎の男たちに猛攻撃を始めた。彼らはそちらを相手している。
 どうしたら良いかと気を取られていると傲慢な男の魔法石は眩い光を放った。黒い何かが空間を割いたように飛び散り、集結した塊は砕け落ちた。ドロドロと泡を作り混ざり合っていく。茨のように魔法石に絡み集まっていった。
 なんだこれ。鋭い爪、二本の角、岩をも穿つような牙、しなやかな尻尾、空を隠す大きな翼。なんだよ。なんだ。まるでドラゴンじゃないか。
 耳をつんざくような雄叫びと膝をついてしまいそうな威圧感。魔法石を核に赤いドラゴンが生成されたのだ。


「わぁ☆久しぶりに見るねこれっ!」
「……マジ?禁忌までは予想してなかったかも」
「占い外れちゃったぁ?」
「これは占いじゃなくて、小生の予想だから〜」

 彼らは影たちをいなしながらも直ぐにドラゴンへ臨戦態勢に入ろうとするが、討伐よりも人命救助を優先する。いつの間にか侵入した敵の援軍が、試験官やエルフの女性たちを襲おうとしていたのだ。


「ああ、ッハハ……これだから下等は生きにくいやつらだ。どれだけ強かろうと誰かを守ろうとしてしまう。優先順位も間違える下等だからゴミなんだ。分別して世界を綺麗にしてやるよ」

 今まで冒険者としてたくさんのクエストを受けた。魔物だってたくさん討伐したし、人間同士の争いにも関わったことも何度だってある。

「全ては俺だけのために」

 自分は何をしにきたんだ。
 ガーディアンになるために来たんだろ。誰かを守れるように、仲間を守れるように。おとぎ話の英雄たちのように!


──守るために、不死鳥天舞


 脳から足先に伝達するよりも早く、鍛えたよりも力強くドラゴンの方に走り出した。
 一撃、炎を切り裂く。二撃、左の腕を外へ押し切る。三撃、右の爪を弾く。四撃、剣を大きく振りかぶって胴体に切りかかる。

 しかし、それは届かなかった。
 だって剣が無かったんだ。爪を弾いた時に刀身が折れていたことに気づいていなかった。


「………っ、え」


 22時、君の剣は折れる。


 やば、間に合わない。







──俺より輝くな、ブーストオーラ


「はぁ…、お前たちとぶつかるのはわかっていたさ。ただ、何も今日じゃなくてもいいのに。待ても出来ないのかよ」


 燃えるような光は悪しき竜を迎え撃つ。


──重ねろ、プラーナソード


 白い斬撃は全てを守る。





「待ってたよー♪美味しいとこ持ってくー!!」

「俺を呼ぶ時には、事務所通してね☆」

「さぁ、出発しようか。小生たちと冒険へ」



 三銃士を信じろ。


──One for all,all for one

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